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TRPG関連のお話

可哀想な子

みちると佑都

 

 

 昔、母さんは俺とみちるを置いていった。今では親父が死んだから籍を戻してもらったけれど、すぐに母さんも死んだ。流れのまま当時親父に無理矢理入れられた暴力団で仕事をして、みちるは水商売と武器商人なんてものをしている。水商売までは確かに俺が連れて行ってやったが、そこまで危険な道に行っているとは思わなかった。
 姉さんにはこっ酷く叱られてしまったが、俺は間違えたことをしたとは思っていなかった。みちるも俺も難なく仕事を続けられているのに「可哀想だ」と言われるのは、姉さんが俺とみちるを可哀想な人にしたいからだろうと思うこともあった。
 そんなのは間違いだということも知っている。
 けれどみちるは自分のことを可哀想なんてこれっぽっちも思ったことはなさそうだった。

「ゆうくん、今日はお家帰ろね。偶にはりんちゃんに顔見せないとまたアパートに突撃隣の晩御飯されちゃうよ」
「……あのババア」
「だってゆうくん言わないと来ないじゃん、きいちゃんはもっと来ないけど」

 あの酷い顔の引きつりも嘘のような白い頰で、みちるは笑った。ここはキャバクラで、俺はボーイという立場なのにこんな所を見られてしまっては客が逆上してしまわないだろうか。少し人目を気にしてみる。更衣室には誰もいない。
 みちるは俺の前では普通に服を脱ぐ。男として見られていないのだろうか、それとも見えないからとボディメイクを施されていない部分の焼け跡を見れば萎えると思っているのか。そういう目で見ないように心掛けはするが、偶に無防備すぎると思うこともある。
「……ゆうくんもやっぱり大きいおっぱいが好き?」
「いや、俺はケツの方が好き」
「ぶー!いけずのくせにスケベ!!」
 べえ、と舌を出す行為の幼さに、みちるがまだ20にもならない少女だということを思い出す。どれだけ自分でお金を稼ぎ、過酷な状況に身を置いても、遊びたい盛りの18歳だ。それを実感するたびに、ああ結局俺もみちるを可哀想な子にしたい一人だったと気付いてしまうのだ。
 校是みちるは誰がどう見ても可哀想な子だ。そう思わないのは、きっとみちるただ一人なのだろう。

「……きいちゃん次はいつ帰るって行ってたっけ」
「あと一月後くらいだったか」
「そっか。じゃあみちるアフター行くね、バイバイ」

 クソ兄貴、もとい利一が初恋なのだとみちるが昔言っていた。その時程ではないが赤い顔で、みちるは更衣室を立ち去っていった。
 窓を覗けば二人の男と連れ立って店を出て行くみちるが見える。ああ今日はあの二人としっぽりしてくんのかあと野暮で嫌な想像をしながら、俺も更衣室を立ち去った。