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成果レポート

 

鈴川羽海(■■■■)本人聴取によるレポート

2018/10/18

 

 

 

”名前は鈴川羽海。恐らく11歳で、性別は女。どこで産まれたとか、誕生日とか、父親と母親の顔とか、何歳ごろは何をして、どういう子どもだったか。そういうのは覚えてない。
 本当の名前とか、親戚がどういう人だとか、そういうちょっと昔のことがするりと抜け落ちている。多分、無理に思い出すことは出来ないんだと思う。おかしな子だとも言われたくなくて、これは誰にも言ってない。
 養父は鈴川雁真。でもこのヨウフという表現が好きではない。父という漢字には、どうしてか嫌な感じがある。”

 

”目が覚めた時、牢屋に囲まれた通路にいた。その中に鈴川雁真もいた。
 おかしいけど、記憶はないけど知識はあり、牢屋の中にいるのは悪い人間だという判別はできた。
 でも色々あって、最終的に脱獄した人々のうち、鈴川雁真が保護者になる流れになった。”

 

”脱獄しても、鈴川雁真(以下、彼)が犯罪者であることに変わりなく、隠れるように生きることを強いられた。
 けれど、彼が褒めてくれるので、特段その生活を苦に思うことはなかった。
 ただ一つ言うなら、そんな生活環境なので友達は出来なかった。
 周囲の、特に男子のひそひそ話が、怖くないと言えば嘘になる。”

 

”彼の自殺する数日前、彼から聞いた用事は「幼馴染に会う」とのことだった。
 基本的にそう人と会わなかった彼が言うものだから少し不安だった。
 けれど、まだ小さな子供にそれを引き止めることは叶わなかった。引き止める理由が浮かばなかった。会ってくれる友達がいて羨ましかった。”

 

”彼の帰ってこない間、普通に過ごしたつもりだ。炊事洗濯掃除、できる範囲でやったつもりだ。
 しかし警察が家にやってきた時、警察官の一人は「部屋が荒れており」と電話口で話していたのを聞いた。”

 

”彼が自殺するような原因は思い当たらない。やっぱり子どもだから何の力にもなれないのか。
 やはり耐える生活に嫌気が差してしまったのか。役立たずだったのだろうか。
 分からなかった。”

 

”私には、もう誰もいない”

 

 

 

 

 

 暴れ、怯える子どもから聞き出した内容のメモを、デスクの上に並べた。
 本名■■■■。しかしその名前は彼女の記憶にない。だから少女への警察の聞き取りは拒否して、こうしてこちらで独自に訊きだした。
 今どうしているのかと聞けば、部屋で泣き疲れて眠っているらしい。部屋に入ると途端に起き出し抵抗される為、監視カメラを設置しているようだ。
 そんな態度を取る少女から聞き取りを自ら行えるほど、俺の神経は狂ってない。しかし必要なことではあるので、部下にさせた。正直非道だと言われても、反論はし難い。

 

 俺の兄でもある、彼女の父親は死亡した。母親は、父親により殺害されている。皮肉にも彼女の父は、鈴川始めとした某刑務所跡地にいた人間により殺害されたと推察される。
 ということは、彼女はもしかして父の今際をその目で見たのかもしれない。だとすれば、彼女の記憶喪失は不幸中の幸いだろう。
 彼女は『初めて大切な人を失った』。それでいいのだ。

 

 上記に即して、俺は少女の親権を押し付けられるような形になる。勿論拒否する理由もなければ、そのまま俺の手元で育てることが当然だと思っている。
 ただ、俺の周囲というものは『普通』に当てはまらない部分がある。そんな人間の元よりかは、極めて普通の家で、次こそ何不自由なく暮らしていけた方がいいのかもしれない。
 やはりここでも彼女の記憶喪失は不幸中の幸いだった。このままこちらの知っていることは告げないでおこうと思う。

 

 しかし、では、どうするべきか。
 考えられるのは自分の所か孤児院・養護施設か、無理に調べて刑務所にいた人間か。どこでもそれ相応のリスクはある。
 俺は一先ず、偶然知っていた孤児の女に連絡を付けることにした。近日、少女を連れて其方に伺うことを検討する。
 女が現在幸せに暮らしているかなど当の本人しか知り得ないことだが、少しは心情・論理共に整合性のある案を出してもらえることに期待する。