stereoTV

TRPG関連のお話

隣人

特にいみはないです

 

 

 私には奇妙な知人が数人いる。
 例えば、家に十分な資産があるのに警察官になる男だとか、いい素材だろうに未だに独り身の男だとか、しょっちゅう姿を変える女だとか、気は強くない癖によく話し掛けてくる男だとか。
 掘り下げればそれなりの理由があるということは分かったが、それは効率の良い生き方とは言えないだろう、と私は思う。
 しかしそれを本人に言えば、この目の前の女からすると「何ともまあ価値観の押しつけだね」ということになる。
 目の前で別人に成り代わる、その工程に白黒しつつ眉根を顰めた。
「おや、折角これほどないまでにキレイな顔してるんだからもっと笑えばいいのに」
「貴方に言われると薄気味悪いな」
「非道いな、オレから見たって君の美貌は天下一品なんだよ」
 三白眼の、気のよさそうな青年から不思議な雰囲気の女性に移り変わる途中で、それは口の端を釣り上げ心底愉快そうに笑う。
 一瞬だけ見せるやせぎすの躰が、すっかりと健康そうな形に膨らむ。このシーンさえなければ、目の前の人間を女だと特定することは難しい。
 私の住むマンションは、私自身が食事を全く作れないこともあり、人の出入りが多い。その中でこの人間が、私の見た人間の中で一番不可思議だと多くの同意を得られるだろうと思う。
 彼女はとんでもなく、変装が得意である。
「……私の何処か変ですか? 地毛がはみ出してたり?」
「いや、貴方の変装は完璧だ」
「なら良かった。 して、何故そのような顔をしていらっしゃるのですか?」
「その変装が完璧すぎて不可思議なのでな」
「ああ…… まあ、このくらいしか取り柄が御座いませんから」
 服が変われば口調も変わる。変わらないことと言えば、ふとした時に出るその特徴的な笑みくらいだ。
 これ以外に彼女と彼を結びつける要素があるとすれば、それは科学の力に頼ることになるだろう。彼女の作業をこれまでいくつか見てきて、そう思う。
 だから彼女の名前のどれが本当なのか、私は自信を持って断言することはできない。
 この姿をしている時は、「踏青落花」と名乗ってはいるが。
「うふふ、貴方はいつ見せても初めて見たように眺めるのだから、面白いです」
「そりゃあ何度見ても飽きないだろう、こんなもの」
「私だって、ここまで来るのに沢山練習しましたものよ。 誰にでも見せるものではないけれど……貴方は特別」
「まあ、偶然だろうがな」
「当然ですよ。 現に私は、貴方のことを深く探ろうとは致しませんでしょう?」

 本当に特別なら、互いのことを深く知ろうとするでしょう。それも、彼女の弁である。なるほど分からない。
 素直にそう返せば、鈍感ですことと罵られた。

「……ところでリリアさん? 件の男性とはどうなったんです?」
「何もないな」
「あら~、お可哀想に」

 こういう所がこの女にはあるからな。