視界
みきの姉妹と樋山
姉さんと私の人生はあの男が壊しました。あの男は今ものうのうと私や他の人間から搾取を続けているそうです。『従兄弟のよしみ』で教えて頂きました。
さっさと死んでくれればいいのにと思う次第です。
「さきちゃんはお姉ちゃんが守るからね」
あの日から姉さんの口癖はこれだった。多分、私が甘えすぎたせい。何もかもが恐ろしくて姉さんに縋りすぎたせい。姉さんはいつの間にか自分のことを話してはくれなくなった。
証拠としては、姉さんの転職。優しい姉さんにとって精神病院の方向性とは苦痛だったらしい、というのは、不可思議な事象に巻き込まれるようになる前までは、精神病院にお世話になることがなかったので、そのことに気付けなかったのだ。優しい優しい姉さんが、頼れるのは私だけだと言うのに、気付けなかったせいで姉さんの勤務年数を延ばしてしまった。
転職を勧めたのは姉さんと同じく精神系のカウンセラーをしていた男だった。彼はもういない。数年前から行方不明になっている。ついでに言えば、彼を格別に可愛がっていた人物も失踪した。
だから姉さんが頼れるのは本当に私しか居なくなった。
姉さんが男を信用できるわけがない。女性相手だって、威圧的な相手などは得意ではない。私ほどではないけれど、人見知りではある。私よりマシなのは仕事柄他人と話さなければならないからだろう。
姉さんを守っていこうと決めたのに、私は姉さんを頼ってばかりいる。姉さんは可愛くて、優しくて、居なくなった母さんの代わりにずっと私を守ってくれたから。
だからせめて、あの男からは私が守ろうと決めたんです。
姉さんが男性を恐れるようになった、貴方からは。
「そりゃまあキレーな愛情ですことよ」
「姉さんの為になることなら幾らでもします。姉さんには私しか居ないんだから」
「でもさぁ、南瀬チャンのスマホに男の連絡先が入ってたんでしょ」
「……」
「もう沙妃なんて要らなくなるね」
甘ったるくて意地の悪い囁きで男が、樋山遼二がそう言う。馴れ馴れしく私の名前を呼び捨てる。
嫌いだ。
嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで仕方ない。
けれどむやみに機嫌を損ねる事を言うことは許されない。いたずらに姉さんに手を出されては堪らない。
私にだって姉さんしか居ないのに。
「南瀬チャンが居なくなったら、俺の所においでよ。可愛がってあげるからさ」
「冗談も大概になさってください」
「……可愛くないねぇ」
そうして男は、私の服を。