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TRPG関連のお話

サタスペ:新島啓のその後

このログだけサタスペ

お試しシナリオ

 

 

 

 

 

 目が覚めたら知らない場所に居た、なんて犯罪というものを一度もしたことのないつもりだった自分にはあり得ないと思っていた話だ。ここは漫画の世界でもないし、恨みを買われるようなことをした覚えもない。結果的に大阪市警から逃げ切り札束を手にしたからいいが、本当に災難な出来事だったと思う。
 作業を共にしたあの二人は、どこの誰だったかも知らないのであれから会うことも恐らくないだろう。元気にしていればいいが、その行く末を探るようなことをする気力には私には起きない。面倒事には首を突っ込まないのが吉だ、私はただ静かに暮らせていればいい。
 ここ大阪は随分とまあ危険な街なもので、ああいう物騒な輩が蔓延っている。比較的安全な地域に住んでいる私であれどいつ厄介事に巻き込まれるかは分からない、というか現に巻き込まれてしまったのだと思う。これからは自宅のセキュリティをもっと強化せねばなるまい。不法侵入は勘弁だ。
 「ね、君は変な人が家に入って来るの見なかったかいりんご」
 そう言って足元にいた柴犬を撫でてやった。りんごというのはこの柴犬の名前で、意味は特に考えていない。りんごはわふわふと私にじゃれついてくるだけで返事らしいものをしない。私が戻ってこなかったらどうするつもりだったのだろうか、犬の思考なんて分かったものではないけれど。
 そうして蓄えた資金を操り私は金貸しをしている。いつか居たチームで参謀役をしたこともあったが、それも昔の話。誰かに誘われない限りはこうしてなるたけ平和な日常を送っていきたい、拳銃をよく壊す『拳銃殺し』としてはその方が快適だ。
 飛行機を組み立てたことも、若者と飛行機に同乗したことも、パラシュートで落ちてきた人を二人ほど殺害してしまったのも、全ては一夜の夢で、札束だけが何時の間にか我が家に転がり肥やしとなった。そういうことにして、今日も私は表の仕事をする為に着替えを始める。些か退屈にも思えるが、案外それくらいが幸せなものだと何処かで聞いた覚えがある。そして実際私自身、そう言い聞かせていた。
 誰も殺すことはできないだろうと思っていたこの手で人を殺してしまった。その目の前で起こってしまった惨劇に、私は不覚にも興奮してしまったのだ。滑稽なくらいあっけなく人が死んで飛ばされてしまうその光景に、興奮してしまった。だからこそ平凡こそが平和であると言い聞かせる。厄介事にまた巻き込まれたいだなんて思わないように。
 そうして出かける準備を進めている内にチャイムが鳴る。今日は誰と商談をする予定だったろうかと思い返しながら急いで身支度を最低限整えて、足元でじゃれつこうとしてくるりんごを撫でて制する。
 「何方様でしょうか」
 そうして今日も滞り無く巡る。