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TRPG関連のお話

台風規模

心を広くしてご覧ください。

まめしばこ(@mame_siba_ko)おめでとうございました。島川くんお借りしました。

 

 

「男性相手の会食に、相応しい様相とはどんなものだ?」

 

 暖かな空気、散る桜は儚く、香る珈琲は美味しく、眼前にはうつくしい人。洒落た喫茶店で過ごすひとときは少し緊張するけれど、幸せなものであるはずだった。
 ……何故、好意を寄せている女性にそんなことを聞かれなければならないのか。僕は真剣に頭を抱えたくなりました。(H.S 男性 20代後半 IT関係)

 

 

 

 

 

「いい年なんだからそろそろ身を固めろと母がな」
「ソ、ソウナンダー」
「一応、母にも相談はしたが自分で考えろと一蹴されてしまったんだ。生憎仕事着以外はパーティードレス3着程しかフォーマルなものがない」
「スゴイネー」
「華美な服は苦手だ、とか言ってはいられないものかな……っておい、大丈夫か?」
 心ここに在らず、とはこの時の為に用意された言葉なのだろう。表情に生気が見当たらず、返す言葉は相槌ばかり。おかしいと彼女が気付いた時には既にそうなっていた。
 ああ鈍感とは時として重大な罪になるのだ。心の中で、その様子を見た誰もが合掌した。あの男性に救い在らんことを、と。
 混乱のあまりか彼はグラスの中身を飲み干す前に、そのグラスごと丸のみしようとし始める始末。女性が止めて、ケーキの追加注文を即座に入れる。違うそうじゃない。
 季節は春になり、恋の季節だとか言うメディアもあるが、ワンフレーズなんかで片付けられる程穏やかな春一番ではないらしい。
「グラスを食べるくらいならケーキにしろ。 今はさくらんぼのケーキだなんて可愛らしいものを置いているし」
「そうだね……ははは」
「……ジェラートに変えるか?」

 

 違う、そうじゃ、ない。
 誰かがそう唱えても、気を遣っているつもりらしい彼女は止まらない。食べない方を自分が食べると言い出して、ジェラートを追加する。
「ちなみに、会食って」
「分かるとは思うがお見合いという奴だ」
 ぴしりという効果音が今にも聞こえてきそうな勢いで、男性は静止する。僅かな希望的観測は一瞬で自爆と成り果ててしまい、心どころか彼自身焦土になっている。一体誰がこんな酷いことを。

 

「お、おあいては……」
「さあ?どうせ母のことだ、人間的に悪くはないのだろうけど」
「そっかあ……す、すごいしんらいだね……」
「一体どうしたんだはじめ、ケーキもジェラートも苦手ならそう言えばいいのに」
 美味しそうに頬張るその顔にホイップクリームがついてるよとか、そういうほのぼのとしたやりとりを交わす余裕は最早彼にない。
 そもそも、どれだけ性格の欠点を加味してもその容姿でこれまで独身でいることも珍しい話なのだろう。いつかはあり得る話として、念頭には入れておくべきだったのだろう。
 そうしておくことで、彼は少しダメージを減らせたのかもしれない。
 ならばと彼は口を開く。せめて、言うだけ言ってしまった方が諦められるかも、しれないから。

 

 差し出されていたジェラートの皿が、衝動に揺れる。驚く彼女の青色に、深刻そうな面持ちの男性が映る。
 すう、と浅く吸い込んだ空気が緊張を伝え、ほんの一瞬その場が静まり返る。
 今にも泣き出しそうな目が、震える口が、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「ねえリリアさん、僕は……」

 

 

 

「ど、どうしたはじめ! まさか貴方は、私が本当に結婚を考えていると思っているのか?!」

 

「えっ」

 

 えっ。
 露骨なその声に彼女はまた驚いて、口を開く。
「単に礼節を欠きたくないだけだぞ、私は!」
「え、ええ……?」
「チッ、こうなるんだったらこれまで付き合いの会食を渋らなければ良かった……」
「いや、それは行かなくていいと思う」
「何故だ」
「な、何ででも! いいから!!」

 

 ……この何故何ででもが繰り返されるようになってからは、空間も平静さを取り戻したようだった。