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TRPG関連のお話

かの箱庭

リクエストボックスより

『キリヤと勇介さん 刑務所その後』

 

 薬品と、鉄と、金の匂い。
 この小さな箱庭はそんな匂いがするように出来ていて、それが妙に安心する。とうの昔に神経はだめになっているので、異常だと罵る人間はさておき。
 箱庭では一匹のペットを飼っている。出会った頃から生気はなかったが、殺す手段をなくしてしまったので手元に置いて仕事を手伝わせている。それに逆らう気配はなく(もしかして気力がないだけかもしれない)、姿見も適当に見繕ってやれば何ら違和感をもたらさなかった。
 ただ、一件を経て暫くした今、手のひらには簡単に劇薬が乗るようになった。
 ペットは自殺志願者だった。

「今でも死にたいって思う?」
頼んだ書類整理の手を止めて、一度此方を見て、答える。
「……さあ。でも今の生活は、楽です」
「楽ぅ? 変わってるなあ。俺の知人は揃ってクソって言うのに」
「他人に手綱を握られるのは、とても楽です」

 滅多に笑わないのに、その時だけ薄らと笑むのが妙に気に食わない。殺すのは病に苦しんで、それでも生きたいと願った人間だからだろうか。元はちゃんとした病院の医者だったから、そんな人間は少なくなかった。
 『死こそは救い』という考え方はあの一件以降も変わることはない。このペットにせよ患者にせよ【商品】にせよ、生きることは苦痛なのだと見ていて思う。病に侵されていない人間でさえ世の不条理に苦しんでいるのだから、重病患者などの生きづらさは自らの想像さえも超えるだろう。
 ただ、彼らは死にたいと言う割にいざ殺そうとすると怯え、助けてくれと叫び出す。錯乱しているのか、強がっているのか。どちらにせよ殺したけれど。
 だからこそ、このペットのことがわからなかった。

「やりたいこととかないのー?家族に会うとか、遊びに行くとか」
「あわせる顔がありませんし、外には興味がないです」
「つまんないなあ、ユウスケさん俺のペットじゃないの?」
「はあ……」
「ユウスケさんは俺に固執している訳でも、生きることに固執してる訳でもないから扱いづらいよ」

 そう、本当に扱いづらい患者なのだ。
 病に苦しんでいる訳でもないのに、たかが人殺したくらいで死にたいなんて不思議だと思うのは多分自らも馬鹿みたいに殺しているからなのだろうか。好きなように生きてきたから、自分の考えていることなんて分からない。
 ただいつかこのペットも出荷するのだろうと思いながら、リボンチョーカーを眺める。ベルベット素材のそれさえも拒まないペットは、きっと知らない間に出荷される。それでもいいと言うだろう。
 何だか馬鹿らしくなって、ブローカーに送る商品の添付書を打ち込もうとパソコンを起動させた。
 そこには、まだ『大宮勇介』の名前はない。