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TRPG関連のお話

兄は目を見開いていた

綾野兄妹の話

ちょいちょいいろんなセッションの話が混じっております

 

 

「苑間さんについて何か知っていることがあれば教えてください」

 普段真面目な文調で連絡を寄越すことのないあの自称天才がこんな文を送ってきた日には、明日の天気を心配せずにはいられなかった。僕らの中でもあれは格別に喧しい。
 謎のコミュニティであるこの連絡網メンバーは、何かと『探し物が得意な』人物がいる。僕の兄は警官で、知人は鑑識、件の自称天才は名の知れた探偵である。だから何かと問題があっても、何方かと言えばそれ以外のメンバーが頼ることが殆どだ。それなのにこの内容である、というのも天候を憂う理由だ。
 苑間の様子がおかしくなったのは、これまたメンバーの1人である男が死んでしまってから。2人は幼馴染だったらしい、僕には然程親しいように見えなかったが、死んだ男がそう語っていた。
 真面目な性格をしていた女だったから、思い詰めるなり何なりして結果的に踏み外したらしい。自称天才からの連絡ということは、あれの調査結果が芳しくないということだ。

「で、お兄ちゃん知って……いや、やっぱり喋るな。語尾にウホとか付けるなよ、やる度に蹴り上げる」
「ひでえ……オレだって好きでゴリラ語尾になってる訳じゃないんだウホ……」
「はいタイキックー」
「ヴォホーーーーー!!!!」

 具体的に言えばHPを4減らしたくらいの感覚、スパンと綺麗に兄の尻に叩きつけた音。これで懲りないんだから兄のタフさを少しくらいは僕に寄越して欲しいものだ。何回やったと思ってるんだか。
 これが先述した僕の兄である。現在何故か語尾にウホウホと付き、動物園に行くとゴリラと意思疎通し始めるようになった。僕には到底理解し難いが、本人も理解できていないようである。兄を診た知人曰く『ゴリラに致命的な何かを植えつけられた…の、かな?』何かって何だ何かって。
「にしてもなあ、おかしいウホ」
「何が?」
「背中踏みながら聞かないでくれるかなァーーー!!?ほ、ほら結理ちゃんも沙妃ちゃんも、ついでにオレも皆おかしくなってるウホ。依子も最近し、り、あ、いと何かあったんだろ?」
「あー、そんなこともあったね…うん……余計なこと思い出させやがって…」
「そのまま背中固めに入るなウホォ"オ"オ"」
 下で呻き声がするが、無視。
 まあ確かにおかしいとは思うが、偶然の産物ということもある。関連しているなんて面倒なことは考えたくもない。関連しているのなら全て超常的な現象ということになる、あれの解決は経験則とにかく時間がかかるのだ。
 この兄は何の役にも立たないと分かったので、何の気なしにテレビのスイッチを入れる。タレントなんかがトークショーをしていて、ああエンターテイメントの会話はやっぱり面白くないなあと感じるあたり僕こそつまらない人間なんだろう。
 という自虐を置いて、連絡の文面を読み返す。いつでも自信満々の表情を少しは崩して調査に当たっているのだろうかと思いながら、とりあえずは知らないという旨の返信をしておく。まあ、僕はあまりアテにされてないだろうけど。
 僕に踏み潰された兄は溜息を吐いた。退けだのは一切言わないあたり本当にこの男はシスコンだ。仮に僕に殺されそうになったとしたらどうするんだ。
「……なー依子ぉ」
「何」
「心配ウホ、あの人たち」
「……そうだね」
「あああああ痛い痛い痛いしんじゃう頭持ち上げないで」
 真面目な台詞をもぶち壊す魔法の語尾、ウホ。この兄が語尾を戻し次第もう一度殴ってやろうかと思う。そして今も殴った。
 何発殴ろうかと思案している所で、僕の手は止まる。ちょうど先程までやっていたバラエティが終わり、深夜帯のニュース番組が始まる瞬間であった。


『……最初のニュースです。××県◯◯市の△△川で、四肢を切り取られた死体を発見しました。被害者は一般会社員の…………』