stereoTV

TRPG関連のお話

ひどいゆるしかた

一応その後みたいなもの ホモ

シナリオ:銀弾の射手

 

 

 

 

 

 ジリリリ、耳を劈くスマフォのアラーム。目を開ければやけに散らかってしまった部屋が何時もより狭く思える。
 次に気付いたのは肌寒さ。服を脱がされている。お陰で後ろの熱があからさまだ。まだすーすー寝息が聞こえるものだから、身動きがままならない。大きく溜息を吐く。
 またやられてしまったようだ。
 家賃滞納だとかでしょっちゅう居住地を追い出される後ろの人物、沢尻始は同僚である一真の狭っ苦しい四畳半のボロアパートに転がり込むことが多い。適当にモテてたと言うのだから女の所へ行けばいいのにそれをしないし、そんなに頻繁に来るなら布団を買ってこいと言ってもそうした試しはない。現に今も一真の腰に腕を回して安らかに眠っている。いくら拒否しても始が言うことを聞いたことはない。
 再び身動きをしようとすれば簡単に腕は外れる、がそのまま立ち上がろうとすると急に腰が折れた。痛い。仕方ないので壁に手を付きつつ洗面台に向かう。途中で始のパンツを踏んで転びかける。
 鏡に映った一真の顔は不機嫌極まりなかった。目付きが元々悪いのでそんじょそこいらのヤの付く自由業に見えなくもない。つい最近その業種と関わってろくなことにならなかったので、思い出して一真は舌打ちをした。
 腹に大きく傷が残った。塞がりはしたが、痕は消えない。死ぬのかもしれないと思っていた一真はこの程度で運が良かったと思っていたのだが、上司や医者には叱られた。あれから化け物騒動は終わったのだろうか。木曽からそのような話は出なかったが。
 この傷について半居候の始は、大きく反応を示さなかったが。
「おはよう、一真」
 背後から指が忍び寄りその傷をそろりと撫でる。ほんの少し肩が揺れたのも束の間、背後に左足を蹴り上げれば悲鳴が上がった。崩れ落ちかける始を見る一真の目は明らかにキレている。
「殺すぞ沢尻」
「ええ、昨日あんなによさそうだったろ!?」
 殺意丸出しの視線を驚く始に投げ遣れば「やりすぎたとは思ってるよ」と肩を竦めて降参のポーズを取った。
 沢尻始という男はどういうことか一真の身体を求めることがある。
 借金を重ねて別れることが多いような悪物件だがこの男の金ヅルは大抵女だったと一真は記憶している。その始が何を思って一真の身体を求めるのか、一真には理解し難い。男の身体なんぞ快楽を得られないだろうし、一真が同性愛者なこともないのに。
 いつもその欲求を受け入れることはない。むしろ断る回数のが多い。そのうち丸め込まれ及ばれてしまうこともあれば、暴力で欲求に打ち勝つこともある。及ばれてしまった場合、翌朝顔を合わせる前に一真は出勤して職場でも口を開かない。一真は元々口下手なので誰も気にしないが、木曽だけは「喧嘩でもしたか」と慰める。
「っていうか、そんなに嫌ならいつも通り暴力で拒否すればいいのに。オレ一真に力で勝てると思ってないし」
 拗ねたように始が後ろから言う。顔を洗っていた一真が顔を上げても、始の顔は見えなかった。身長がほぼ変わらないのを良いことに、一真の身体を壁にしているらしい。目を逸らせば鎖骨に近い所に赤が見える。また舌打ちした。
「……あんたが必死な顔するから」
 苛立たしげに吐き捨てる。不機嫌に不機嫌を重ねた三白眼が、鏡越しに後ろを睨む。ちらりと見えていた黒目が逃げた。
「正直で明け透けなものほど拒否し辛いものはない」
 だから受け入れてやって、組み敷かれて喘いでやってる。言えず息だけを飲み込んだ。受容を認めてしまって、調子に乗られるのが癪だ。
 腹立たしい同期が何を考えて組み敷くかなんて知らない。けれど全てではないとは言え受容してしまった自分も自分で、二人揃ってトチ狂ってしまった。このまま何処へ行ってしまうのだろう。時間が流れるにつれ、曲がるのを自覚する。
 それでも始は返答に顔をほころばせた。能天気な野郎だ、と一真は思って洗面台を明け渡す。我が物顔でずいずい進む始は、すっかりこの四畳半の勝手を知っている。
 床に戻って敷布団を片付け、散らばった服と汚れたシーツを洗濯カゴにぶち込んでから着替えを始める。一応付いてるぼろぼろのカーテンを開けると朝日が眩しかった。出勤までまだ適当に時間がある。朝食をと考えて炊飯器を開けたら米が黄色くて三度めの舌打ちをした。
「ご飯黄色くなっちゃってるなあ。一真、お茶漬けにしようよ」
「ん」
 異論はなかったので了承すると始はさっさとヤカンを持ち出して中に水を入れる。適当に溜まったらそれを火にかける。壊れかけのガスコンロは火が付くまで3回ほど押し直しをしなければならなかった。火が点いたら、始は戻って折り畳みのテーブルの準備の方に行く。どうせそれ以上台所にいても一真に追い出されるのだ。
 湯が沸いたらそれを予めよそっていたお茶漬けの素がかかったご飯の上に掛けて、盆の上に乗せる。折り畳みテーブルの上にそれを置いて、箸と冷蔵庫に入ったお茶とコップと言う前に始が歩いていった。箸をコップの中に入れたのか、戻ってくる始からからころ鳴った。
「一真」
 呼ばれたから顔を上げた。視線のかち合った始が一瞬固まって、一真が首を傾げる前に顔が至近距離まで近付いていた。唇を食まれる。座っていた一真の肩が落ちていく。
 生き物のように自由に動く、なまめかしい舌が一真を捕まえる。呼吸が整わなくなる。くちりと煩い音で夜中のことを思い出しそうになって、目を鋭くする。だめになる。甘受する自分を、必死に弄る始を思い出して蕩ける。
 どろどろに溶ける前に肩を引き剥がした。始の腕からお茶のペットボトルが落ちた。始の唇がつやりとして、ざわついた。
 寸秒置いて、目をまん丸に見開いた一真の拳が始に飛ぶ。金玉潰してやる、と仁王立ちになる一真と、よろけることも許されず狭い四畳半で後ずさる始の横で既にお茶漬けが温い。