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TRPG関連のお話

CoC:住吉白穏のその後

過去ログ 大部分が叔父の野呂兵治視点

シナリオ:死霊の館

 

 

 

 姪が私の元へ男性と共にやってきた日、私は思わず目を見開いてしまった。「彼女の妹にそうしろと聞いたので」と笑った男性はしっかりと姪の腕を握っている。姪の表情は怯えと嫌悪の混じったもので、私を捉えた後もそれは変わることがない。
 一体どうしてしまったのだろう。確かに少し変な娘ではあったけれど、いつも柔らかな雰囲気を崩さずにこにことしていた姪は今や見る影もない。露骨なまでの負の感情と、何かに怯えているような、そんな様子だった。何があったのかと二人に聞いても何も教えては貰えない、ただ男性の方から少し、と言葉を濁されて終わった。
 私は医者だ。精神科医ではないけれど、まずは此方に見せておこうともう一人の姪が判断したのだろう。先ずは少し対話しておこうと「どうしたんですか、白穏」と聞いたものの姪は逃げ出そうとするだけだった。聞けば「私を解体でもする気ですか?伯父さん、そんな注射針なんて折ってやるんですから」と、まるで彼女の妹のように敵意を剥き出しにされていた。彼女の妹ならばまだあしらえるような台詞だが、普段の彼女はこのような言動をする訳がないので動揺して言葉が出なかった。
 「住吉くんの反抗期が治らないんだ」ただ男はそう言った。少なくとも数日ずっとこのままなのだそうだ、これはそのうち彼女の妹からも何かしらの相談を受けるに違いない。何が起こったのかはこれ以上聞かないにしても、余程ショックな出来事が起こってしまったのだろう。
 結局私は力になれそうもない、自宅で療養させておいてくれとだけ告げた。精神科医にやるのは些か怖い、人によっては患者を薬漬けにして金蔓にしてしまうような酷い医者だっているのだ。この男性や彼女の妹が彼女を癒してくれることを願う他ない。悔しい事この上なかった。
 「白穏、大丈夫ですよ。貴方の周りにいる人間がそんな怖い人間に、見えるんですか?」
 「い、いえ」
 「そうでしょう?だからほら、何時ものように笑ってください」
 「……こ、怖いんです」
 尖りのない態度にすることには成功したが、未だに恐怖の色は消えない。ダークブルーの綺麗な瞳が歪んで潤んでいく。
 「怪物が、死体が私を殺しに来るんです!!頭では分かってるはずなのに、私小中さんや他の人たちも私を殺そうとしたんじゃないかって、それで、」
 そこで言葉は潰えて彼女はまた黙り込んでしまった。言っていることの意味はよく分からない、何かあったのだろうという漠然としすぎた結論しか出ない。彼女を連れてきた男性が緩く首を振る、そして彼女の手を引いた。きっとこれ以上の滞在は何も生まない。私もきっと彼も、そう思ったのだろう。私は引き留めることをしなかった。
 「わざわざありがとうございました、仕事は暫くお休みすると言ってあるそうです」
 「そうですか。どうか、姪のことを見守ってやってください……これで結構気丈ですから、きっと元気になるだろうし」
 「もっちろんです!アニマルセラピーでバッチリ癒しておくぞ! ……おっとこれは失礼」
 「いえいえ。それではお気を付けてお帰りください」
 それを最後に、二人は私から背を向けた。姿が消えてすぐに、彼女は「本は、」と何やら本を気にかけていたような言葉を口にしていたのを聞き取る。まあそんなことを言えるようなら、きっと一週間もすれば元通りになるのではないだろうか。私は再びデスクに向かい、カルテの整理をし始めた。
 そういえば知り合いの医者が本の自慢をされてうんざりだった、という愚痴を思い出した。どうやら相手は金持ち坊ちゃんだったらしくその珍しいらしい本を見せたいと勿体ぶったらしいが断ったと聞いている。ここで私の思考は本で埋められてしまった為無性に本が読みたくなった。次の祝日にでも図書館に行ってみようか。

 *

 「あの本は捨てなきゃ駄目なんです!何とか見つけて捨てなきゃ、」
 「駄目だ、暫く大人しくしているんだ、」
 「あなたはあの本の恐ろしさを知らないからそんなことが言えるんです!離してください!!」
 男性の力に勝てる筈もないのに必死に足掻く。悪い人じゃないことは知っている筈なのにその足で頭蓋骨を粉砕される妄想に駆られる。とにかく一人になりたい。どこにも居たくない。誰かと一緒にいたら殺されるに違いない、そんなの嘘。
 冷静になれば、あそこで彼女が踏ん張れば失踪者は生ける屍になったと判断出来たのかもしれない。書物に付箋されていた箇所には不死者の生成呪文という記載もあった。しかし冒涜的な知識からのショックからは逃れられず何も信じられなくなってしまい、結局事件は謎のままに終わった。
 しかし今の彼女にそんなことは関係ない。ただ彼女は毎日ありもしない殺されることへの恐怖に日々悩まされるので精一杯だ。まだ地下にいたあの怪物がそこにいることも、屍が結局どうなったのかも関係ない。ただ誰も信じられなくて、一人になるべく何処かへ出歩くだけだ。





野呂兵治:
精神分析(61)…08/住吉に対して
聞き耳(35)…36/話し声について
心理学(20)…84/声色について