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TRPG関連のお話

CoC:最上恭兵のその後

随分昔に初めてKPしたセッションの後日談

プレイシナリオ:てけりり・かーにばる!

 

 

 

 先輩が何故か精神病院に少し入院することになった。
 俺も流石に少し心配になったので、輝と一緒にお見舞いに行こうということになった。ベタに果物の詰め合わせを持って行ったのだけれど、正直俺は先輩が精神病院に入院するような人間には思えなかった。
 院内は清潔だけど、患者と思しき人々は何処か目が曇っているように見えた。輝は何も気にせずナースの後ろをついて行ったけれど、俺は患者が不気味に思えて素直に進むことが出来なかった。先輩もこうなっているのかと思うと恐ろしいからだ。
 エレベーターに案内されて、やがてドア上の数字が点滅し始める。エレベーターの浮遊感が俺はあまり好きになれなくて少し顔を顰めてしまう。7階で数字の点滅は終わり、扉が開いて案内される。入り口あたりとさして雰囲気は変わらない。
 ナースは709と書かれた病室の前に立って、此方ですと扉を引く。どうやら個室らしく、プレートには最上恭兵の名前しかない。向こうには先客がいたようで、俺たちに気付くと立ち上がり頭を下げた。
 「お見舞いですか?」
 「ええ。容態はどうですか?」
 同い年くらいであろうその男性は少しだけ苦笑いをした。思ったより芳しくないらしい。輝は不思議そうに俺と男性を見ていた。
 「ああ、俺はこの人の友人の斎藤光助です」
 「最上さんの後輩の翠田孝一です」
 「あっ、同じく後輩の文室輝でっす!」
 癖なのか、輝は斎藤さんに敬礼をした。中学の頃はあんなにアホアホ言っていた輝も今では警官なのだから世の中わからないものだと思う。斎藤さんが何処か微笑ましげに輝を見ている他所で、奥のカーテンの方からいつも聞く能天気そうな声が聞こえてきた。
 「孝一ちゃんとふみが来てるのか?おーい光助くん聞こえてる??」
 「聞こえてますよ」
 斎藤さんが返事をすると、カーテンがぺらりと捲られていつものへらへらとした笑みを浮かべた先輩がいた。何だいつも通りじゃないかと嫌な想像をしていた俺は一息吐いてそちらへ歩み寄っていく。その後ろから輝と斎藤さんもついて来た。
 「悪いな」と言いながら土産の紙袋を受け取る先輩は少し窶れてしまっているように見えた。腕には精神病院の筈なのに点滴がされている。しかし他の患者のように生気のない目はしていない。斎藤さんに何があったのか聞いてみてもただ首を横に振るばかりでまともに話を聞けたものではない。一体どうしたものか。
 「そういえば孝一ちゃん、この中身何入ってんの」
 「果物ですよ。何なら開けてしまって構いませんよ」
 ふーん、そうなの。
 そう言いながら先輩は紙袋の中身を取り出し始めた。斎藤さんは輝に「ほんとに何も知らないの!」と軽い拷問を受けていた。やはり心配することではなかった、そう思いながらも俺は安心していた。
 矢先、先輩が紙袋ごと吹っ飛ばした。
 ぐしゃりと、桃だかその辺りが潰れた音がした。俺と輝が驚きに満ちた表情でゆっくりと先輩を見る中、斎藤さんだけは「やってしまった」というような表情で口を押さえていた。先輩の表情は畏怖と驚愕に満ちていて、とてもじゃないが果物を見る目ではない。先輩は次第に普段とは想像もつかないくらいにヒステリックな震え声で叫び出した。
 「何なんだよ孝一、お、おまえこんなゲテモノ食うのかよ」
 「何を言ってるんですか先輩、ただの果物じゃないですかこんなの、」
 「……! やめろ!!!それをオレに近付けるな!!」
 拾い上げた果物を、先輩は再び投げてしまった。心配して駆け寄った輝の手さえも先輩は払いのける。
 「……もっと早く言っておくべきでした」
 斎藤さんは先輩のその様子を見て、小さく呟いた。



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SAN値22減少、不定の狂気【幻覚】
最上には食べ物がすべてショゴスに見えます。